株式会社キノックス

菌床しいたけの栽培相談コーナー

菌床しいたけの栽培について、今までお問い合わせの多かった質問について解説いたしました。栽培するための参考にして下さい。

Q1. 培地の大きさと栽培サイクルの関係について教えてください

A. 一般的に、大きい培地からは大きなきのこが、小さい培地からは小さいきのこが発生する傾向にあります。しいたけの場合、その傾向が特にはっきりしています。
しかし、大きな菌床で長期間の収穫を行うことは、害菌汚染を招く傾向にあり、施設の累積汚染の原因となってしまいます。
累積汚染を回避するためには、発生サイクルを短くすることが有効で、そのためには無駄に培地を大きくする必要はなくなります。
発生サイクルを短くすることの最大のメリットは、単位培地当りの発生量が向上することと病害菌や害虫の発生を抑制することが可能になることです。
それゆえ、菌床の大きさは、栽培サイクルに合わせて決定することが重要となります。

Q2.菌床栽培における培地填圧の目安について教えてください

A.使用するオガコの粒度により、填圧具合は異なります。
オガコが粗ければ(5㎜以上)、堅詰めでも構いませんが、細かい場合には堅詰めにすると内部酸欠となってしまい、培地の中心部の分解(腐朽)が遅れてしまいます。
特にしいたけは他のきのこに比べて酸素要求量の多いきのこですので、培地中の空気の量が重要となります。
堅詰めしても内部の空隙が確保できるように、オガコの粒度はやや粗めに調整することがポイントです。

Q3.種菌接種後の菌糸伸長が思わしくないのはなぜでしょうか?

A.原因としては、培地調製時における乳酸発酵によるpH低下が考えられます。
培地が発酵する原因としては、以下の要因が挙げられます。

1)ミキシング時の発酵
オガクズに栄養材を混ぜて水を添加してからの培地は、外気温が高い場合には短時間に発酵が進行するようになります。
対策としては、水を添加してからの時間は出来るだけ短く(3時間以内が目安)することです。なお、水を添加する前の空練り時間は、長くとも問題はありません。
水を添加してからの時間短縮のコツは、注水方法がポイントとなります。
ミキサーでの撹拌時の水の添加を出来るだけ左右・中央部が均一となるように留意することです。
そのためには、注水工程において、ミキサーの部位による含水率(握り法で判断)にムラを生じないように水の入れ方を工夫することが重要です。

2)当日殺菌の不徹底
培地調整の終了した培養基は、必ずその日のうちに殺菌を行う必要があります。
培地を調製してから殺菌までの時間が長くなればなるほど、培地の発酵が進み、菌糸の発菌・活着が悪くなります。
発酵した培地は、ミキシング時に異臭を発するようになり、殺菌後の培地の色が極端に黒ずむ現象が認められます。
調製した培地は、必ずその日のうちの殺菌を心がけるようにしてください。

3)余剰培地の再利用
調製した培地が余ることは良くあることですが、余った培地は翌日までそのまま放置した場合には発酵が進んでしまうため、必ずその日のうちに処分するように心がけてください。
やむを得ず翌日に持ち越す場合には、必ず5℃以下の冷蔵庫で保管するようにしてください。
コスト削減の意味でも、調製培地が余らないように、ミキサーへのオガコの投入量を適正化させることが重要です。

4)原材料の発酵
発酵した栄養材やオガクズを使用した場合には、やはり培地発酵と同様の現象が見られます。
古くなった栄養材を使用することは論外ですので、必ず新鮮な原材料を使用して培地製造を行うように心掛けてください。
栄養材(米ヌカ、フスマetc.)を長期保存する場合には、必ず5℃以下の冷蔵庫で保管するようにしてください。

以上のようなことから生じる培地発酵現象は、きのこの菌糸の伸長に悪影響を与える「乳酸」等の有機酸を生成することから、菌糸の発菌・活着を著しく阻害することが知られています。
また、発酵により殺菌前の培地内微生物の数が多くなることは、同一条件の殺菌であっても生残する菌数が多くなってしまうことから、殺菌不良に繋がって結果的にはきのこの菌糸培養に悪影響を与えることとなります。
それゆえ、培地調製に使用する原材料は、出来るだけ新鮮なものを使用する必要があり、外気温の高い夏場などの培地調整は、出来るだけ短時間の作業となるように注意する必要があります。

Q4.菌糸蔓延が不揃いとなってしまうのですが?

A.菌糸の蔓延が不揃いとなる原因としては、培地調製時におけるミキシングにムラを生じている可能性が考えられます。
通常、きのこ栽培で使用されている横型のミキサーは決して攪拌状況が良くはありません。
それゆえ、空練りや加水方法に問題がある場合には、個々の培地によって栄養源や水分にバラツキを生じる可能性があります。
個々の培地の含水率や栄養源にバラツキがある場合には、同一仕込み培地であっても、菌糸伸長にバラツキを生じるようになってしまいます。
培地成分の不均一性以外に発菌・活着にバラツキを生じる原因としては、殺菌ムラや種菌の接種量不足による発菌不良が考えられます。
しいたけ菌糸は他のきのこに比べ発菌が遅いことから、長期間冷蔵庫に保管しておいた種菌をそのまま使用したり、必要以上に種菌を細かく砕き過ぎた場合には、種菌の発菌・活着に大きなバラツキを生じることがあります。
それゆえ、冷蔵庫に保管した種菌は、20℃程度の室温(培養室が理想)下で、2日間程度馴致させてから使用するようにし、また、種菌を小豆台程度の大きさに粉砕し、あまり細かく砕かずに、しかも接種量を多めにすることで初期発菌のバラツキを改善することが可能となります。

Q5.夏場に発生不良となるのはなぜですか?

A.きのこが発生しない原因としては、きのこの元である「原基」が形成されていない場合と「原基」の肥大生長のための刺激が足りない場合の2つの原因が考えられます。

1)発生刺激が足りない場合の対応策
きのこの発生には、温度差、移動刺激、窒息や切断等の刺激、水分供給などが必要です。
生育のための水分供給を行ってもきのこが発生しない場合には、他の刺激を追加することが効果的です。

しいたけの場合、温度や移動刺激、更には窒息刺激等の追加刺激を効果的に付与する手段として、浸水操作があります。
出切るだけ冷たい水(20℃以下で、掛け流し状態)に、運搬した直後の菌床を漬け込むことです。
浸水時間は、真夏ですので1晩程度が目安です。
ただし、水没させて窒息状態を維持することが目的ですので、菌床が水面に浮いて来ないようにしっかりと重石を乗せるようにします。
この操作できのこが発生しない場合には、原基形成が成されていない可能性が高いと思われます。

2)原基が形成されていない場合の対応策
原基の形成されていない菌床を無理に浸水等の物理的刺激を与えても、きのこは発生してきません。
原基形成のための休養管理を行ってから、発生操作を行う必要があります。

原基の形成のための条件は、以下の通りです。

  ・温度:15~25℃(理想条件)
  ・水分:菌床含水率で、50~70%
  ・光  :0.5~2.0Lx(室内ではなく、直接菌糸が感じる光)

上記の条件が揃えば、20~30日間で新しい「原基」が形成されるようになります。
ただし、これらの条件は、「健全な菌床」に仕上がっていることが前提ですので、菌床の仕上がり状態に問題がある場合には、必ずしも当てはまりませんので、注意が必要です。
その場合には、むしろ菌床作りの見直しが必要となります。

Q6.初回にきのこが集中発生してしまうのですが?

A.一般的な菌床しいたけの品種においては、過熟培養になってしまった場合に初回で集中発生してしまう傾向が見られます。
集中発生の原因は、ひと口で言うと「熟成過剰=過熟」ということになります。
対策としては、過剰培養とならないように「熟度」を見極め、適正な時期に発生操作を行うことで過剰発生を抑制することが可能となります。

しかし、問題は、この「熟度」の見分け方です。
培地のpH等を測定して判断する方法もありますが、しいたけにおいてはまだ詳しく適正熟度の判断目安の基準は解明されていません。
そこで、次のような方法で発生を抑制しているのが現状です。

1)高温抑制栽培
この方法は、過剰に形成された原基を一定期間高温処理(26~28℃を7~10日間)を行うことで原基の淘汰(生き残った丈夫な原基だけを発生させる)を行い、発生本数を抑制する方法です。
処理期間が長過ぎるときのこが発生しなくなってしまう可能性もあることから、温度管理を厳密に行うことがポイントとなります。

2)破袋散水培養
この方法は、上述の栽培法に比べ管理は楽ですが、散水設備が必要となります。
具体的には、培養40~50日で菌床を袋から取り出し、裸出状態(破袋)で、菌床が過乾燥にならない程度に適宜散水しながら管理を行います。
菌床がチョコレート色に褐変した後、さらに散水管理を継続すると、やがて散水刺激によりきのこが自然に発生するようになります。
自然に発生してくる時期を「熟度」の目安として発生操作に移行することで、過剰発生の抑制が可能となります。
この方法は上述の栽培法と異なり、原基が過剰に形成されるようになる前に発生操作を行うことが特長で、原基調整の考え方は全く逆の栽培方式です。

Q7.きのこが過剰に発生してしまった場合の対策について教えてください

A.過剰発生してしまったものは、きのこの「間引き」を行う以外に方法はありません。
白い球状の原基の先が茶褐色に着色するようになった時点で、大きく育った芽(原基)だけを残して、他の小さなものは指で掻き取るようにします。
ただし、発生刺激を弱くすることで、「過熟菌床」であっても発生数を抑制することはある程度可能です。
対策としては、
1.菌床に移動刺激を与えない、
2.低温刺激を与えない、
3.初回の散水を行わない
等で、出来るだけ余分な物理的刺激を与えないように管理することで発生個数の調整が可能となります。

Q8.2番発生のきのこの品質が良くなるのはなぜでしょうか?

A.きのこの発生個数の違いによる品質の差の現われです。
容量の決まった培地からきのこが発生するため、発生個数が多くなると個々のきのこに行き渡る栄養分が分散して少なくなってしまうことから、きのこが小型化して品質が低下(小開き)してしまいます。
2番発生のきのこは、初回発生に比べ発生個数が少なくなることから、十分に培地の養分を吸収して生育するために大型で、品質の良好なきのこになる傾向があるのです。

Q9.培養における管理の優先順位について教えてください

A.しいたけの培養においては、他のきのこ類に比べ酸素要求量が多いことから、培養段階、特に培養中期の換気管理に注意する必要があります。
菌糸が全体に蔓延するまでの換気管理は、CO2濃度を1,500ppm以内とすることが理想です。
最も酸素を要求するこの時期に十分な換気管理を行わなかった場合は、後々まで弊害が尾を引く形となり、坊主きのこ(傘のない奇形きのこ)発生等のトラブルの原因となります。それゆえ、換気(CO2コントロール)管理が最優先となります。
湿度管理については、酸素を最も要求する時期は炭酸ガスと呼吸水が発生しますので、菌床は乾くことがなく、成行き管理で構いません。
乾燥が懸念されるのは発熱が停止してから、すなわち接種後50日程度が経過した時点からです。
光については、培養中はむしろ逆効果となりますので、暗黒管理で構いません。
ただし、発生操作の1ヶ月程前からは原基形成のための照明(50Lx程度)が必要となりますので、注意してください。

Q10.培養中の菌床熟度を促進させる方法について教えてください。

A.培養中の菌床の熟度を促進させるためには、菌床内部の新陳代謝を良好にすることです。
菌床内部熟度を促進させる目的で、28℃(日中)~23℃(夜間)の通常よりも温度を高めた変温管理(約5℃)を種菌接種後の60日目頃から熟成が終了するまでの間を目安に実施することで、菌床熟度を促進させることが可能です。
その後は、日較差10℃程度の変温管理で20日間程度を目安に実施してください。
培養後半の温度管理を通常よりも高く、しかも変温を付けて管理することで、菌床の新陳代謝が促進され、内部の熟成が促進されるようになります。
熟度促進のためには酸素供給も重要(菌糸蔓延完了までは換気管理を優先)ですが、培養後期では酸素要求量が減少してしまうことから、菌床熟度を促進させるためには酸素供給よりも熟成の温度管理の方が重要となります。

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