株式会社キノックス

ひらたけの栽培相談コーナー

ひらたけの栽培について、今までお問い合わせの多かった質問について解説いたしました。栽培するための参考にして下さい。

Q1. シメジとの違いを教えてください

A. 「ひらたけ」はヒラタケ科ヒラタケ属の代表的なきのこで、傘の形状が牡蠣(カキ)の貝殻の形に似た大変美味なきのこであることから、「オイスターマッシュルーム」として世界的にも人気のきのこです。優秀な食用きのこで、「シメジ」の呼び名で一時期全国に販売されたことがありましたが、古来より美味なきのことして珍重されている菌根菌のホンシメジ(Lyophyllum shimeji)とは、まったく別種のきのこなのです。傘の大きさは5~15cm、貝殻形~半円形であり、時にジョウゴ形となり、傘色は灰褐色~灰青色で、ヒダは柄に長く垂生します。柄の付き方は側生~偏心生で、晩秋~春にかけて広葉樹の枯れ木や切り株などに多数重なり合って発生する木材腐朽性のきのこが「ひらたけ」なのです。
 本来「シメジ」と言えは、“匂いマツタケ、味シメジ”と言われるように、野生の「ホンシメジ」を指す言葉です。しかし、「ひらたけ」は人工栽培が比較的容易なことから、オガコを使用した培地で盛んに栽培されるようになり、販売に当っての名称を検討した結果、生育初期の形状がホンシメジに似ていることから、ホンシメジにあやかり、産地名を付けて「○○シメジ」として売り出されるようになったのです。味の良さが評価され、一時は年間36,000t近く生産された時期もありました。量産されるようになって大衆化したことで、産地名を外して「ひらたけ」の名前よりも「シメジ」として親しまれるまでになったのです。ところが、1978年頃から栽培が始まった「ひらたけ」よりも日持ちのする「ぶなしめじ」に販売量が急激に席巻されてしまい、年々生産量は減少傾向にあります。味よりも販売面でのメリットが優先されてしまった結果、評価が逆転してしまい、現在では、「シメジ」と言えば、「ぶなしめじ」を意味するまでに生産量が急増してしまいましたが、本来は「ひらたけ」を意味する呼称だったのです。因みに、「ひらたけ」は世界的に広く分布することから、前述したように英語圏では「oyster mushroom」、ドイツでは「austern seitling」、フランスでは「pleurote en coqille」、中国では「蠣菇(リグウ)」と呼ばれ、すべて貝の「牡蠣」を表す言葉で、海でとれるアワビやカキの味がすることから、日本では「アワビタケ」の異名もあります。

Q2.発生操作の適期を教えてください

A.「ひらたけ」の適正培養日数は品種によっても異なりますが、一般的には、菌糸蔓延完了時と同時に発生操作を実施します。広葉樹オガコでの栽培と異なり、スギオガコなどの針葉樹オガコを使用したビン栽培では、オガコの分解が全く行われずに添加した栄養源の養分できのこが生長することから、熟成管理は原則必要ありません。逆に長く置き過ぎてしまうと、原基形成や自己消化のために収量が減少してしまいます。そのため、菌糸が蔓延した段階で、直ちに発生操作を行うようにしてください。ただし、弊社のH67号のような晩生系の品種では、菌糸蔓延後に更に10日間程度の熟成を必要とする品種もありますので、品種によって適正培養日数を判断する必要があります。
 また、培養温度が低い場合には、菌糸が未完了の状態でも原基が形成されてしまうことがありますので、培養管理温度はビン間で25℃となるように、通常のきのこよりは高めに設定する必要があります。更には栄養源の配合割合によっても原基の形成に差が生じるようになります。糖質(C源)の多い配合の場合には原基形成が早まる傾向にあるため、菌糸蔓延が完了する前にきのこが発生してしまうことがあります。そのため、「ひらたけ」の場合にはタンパク質(N源)の添加割合を多くした配合を心掛ける必要があります。いずれにしても菌糸蔓延が完了する前にきのこが発生してしまった場合には、発生操作後のきのこの発生に悪影響を与えるようになって収量が伸びなくなってしまいますので、所定の収量を確保するためには、菌糸をしっかりと培地全体に蔓延させた後に、きのこを発生させることが重要です。

Q3.培養中に芽が出ているのですが、菌掻きは必要ですか?

A.「ひらたけ」は原基形成の温度帯が比較的高いことから、培養中にきのこが発生してしまうことがあります。培養中にビン中で発生したきのこは、炭酸ガスの障害を受けていることから、そのまま生長させても形状の良好なきのこに生育することはありません。そのため、生育の日数は若干伸びることになりますが、菌掻き処理を行うことを推奨します。培養中に原基が形成してしまった場合には、菌床内の養分を無駄に消費してしまっていることから、発生操作後のきのこの収量は減少してしまいます。所定の収量を確保するためには、培養中に出来るだけ原基を形成させないことが重要で、温度は高めに、しかもできるだけ照明を点灯しないようにして暗黒状態での培養管理を心掛けることが大切です。
 なお、必ずしも菌掻き操作を行わなくともきのこは発生しますが、芽がバラバラに生長してしまい、収穫に時間を要するようになって、室内の累積汚染の要因にもつながります。工場的に栽培する場合には、発芽を同調化させて収穫を短期間に切り上げる必要がありますので、菌掻き操作は必ず実施するようにします。室内の汚染防止を日常的に心掛けるためには、きのこの収穫を出来るだけ短期間に切り上げてしまい、害菌や害虫が発生する前に菌床を室内から搬出して早期の処分を心掛けることが肝要です。そのためには、菌掻き操作が極めて重要なポイントとなるため、必ず実施を心掛けてください。

Q4.傘がラッパ状となってしまうのですが?

A.きのこの傘がラッパ状となってしまうのは、生育時における典型的な酸欠症状(奇形)の現れです。「ひらたけ」は栽培きのこの中では「まいたけ」に次いで生育時の炭酸ガスに敏感なきのこです。具体的には、生育室内の炭酸ガス濃度が1,000ppm以上になると奇形症状を呈するようになります。そのため、常に1,000ppm以下で管理する必要があります。室内の炭酸ガス濃度を低く管理するためには、こまめな換気が必要となることから、省エネを考慮して熱交換器の使用が理想です。
 また、室内に収容する菌床数は詰め過ぎないように注意し、適正収容本数(800本/坪)を維持するような配慮も必要です。特に真夏と真冬の管理においては過剰収容に注意が必要です。なお、一度奇形となってしまったきのこは、通常な炭酸ガス環境に戻しても正常形状に戻ることはありませんので、早めに収穫(処分)してしまい、次の発生(2番発生)を期待するようにしてください。収量的には少なくなってしまいますが、同様の生育管理を継続することで正常なきのこが収穫できるようになります。

Q5.傘に赤い斑点が出来てしまうのですが?

A.「ひらたけ」は生育室の換気状態などが悪かった場合、傘の表面に赤い斑点様の症状が発生するようになります。一般的に「赤枯れ」と言われる症状で、室内の累積汚染などが原因で生じるバクテリア感染による病兆です。黒腐れ病のような強い病原性はありませんが、商品としての販売は出来なくなってしまいます。原因としては、室内の累積汚染と菌床が健全に仕上がっていないために病気に弱いきのことなっていることが考えられます。室内の炭酸ガス環境の悪化などが、症状を助長させているのです。生育室内の消毒は、それなりに効果はありますが、根本的な対策とはなりません。多少の悪環境下であってもきのこが生育できるような丈夫な菌床を作ることが重要なのです。そのためには、培養管理において、健全な培養を心掛ける必要があります。害菌との競合培養や酸欠培養では、なかなか健全な菌床には仕上がりません。殺菌や放冷、接種、培養初期での害菌混入、更には培養中期(最も酸素を必要とする時期)における換気管理などに注意してください。
 また、栄養源の配合バランスによっても病兆の発現に差を生じることがあります。特に「ひらたけ」の場合は、糖質(C源)の添加割合を控え目にすることが肝要です。糖質割合が多くなることで、赤枯れ病の発症が増加する傾向にありますので、栄養源の配合比率には注意が必要です。また、室内の累積汚染対策としては、菌床の入れ替えの都度に室内の清掃と水洗浄をしっかりと行うことで、汚染予防が可能となります。何よりの対策は、培養管理において、病気に負けない丈夫な菌床作りを心掛けることです。

Q6.傘の色が部分的に青いインク色になってしまうのですが?

A.「ひらたけ」は他のきのこと異なり、栽培に使用する栄養源の配合内容によって傘の色が変化する特性があります。具体的には、糖質(C源)が多くなると傘色が淡くなって「赤枯れ病」などの病害が発生し易くなります。逆にタンパク源(N源)が多くなった場合には、傘がインク色に着色するようになります。それゆえ、安定したきのこの発生のためには、糖質とタンパク質とのバランスを考慮した配合割合を心掛ける必要があります。
 きのこ栽培に使用する栄養源の成分特性としては、炭素(C)と窒素(N)の割合が重要で、菌糸培養において「しいたけ」などの一般的なきのこの場合、その比率はC/N=20/1が理想とされています。しかし、「ひらたけ」の場合はより窒素源(N源)を好む傾向の強いきのこであることから、「しいたけ」に比べ倍近いタンパク質を必要とします。具体的な栄養源の種類としては、糖質系の栄養源(C源)がトウモロコシヌカやフスマ(小麦ヌカ)などで、タンパク質系の栄養源(N源)としては、オカラや大豆粕、米ヌカなどがあります。それぞれの栄養源をバランスよく組み合せることにより、収量・品質ともに良好な「ひらたけ」を栽培することが可能になるのです。

Q7.傘の奇形が多いのですが?

A.生育段階で傘の変形や癒着などの傘奇形が多くなる症状は、菌床が未熟状態で発生操作を行った場合や種菌の劣化が主な原因です。適正な熟度に達しない状態で発生操作を行った場合には、栄養生長から生殖生長へライフサイクルが移行する際に、各組織への分化のための十分な養分蓄積が成されていないことから、胞子を作るための傘が正常に形成されなくなってしまいます。結果として、傘同士の癒着や傘が同心円状に生育できずに歪んだ状態で生長してしまうようになります。
 対策としては、培養段階でしっかりと熟成を進めるように管理することです。具体的には、「ひらたけ」の培養最適温度は28℃前後と他のきのこに比べて高いことから、管理温度をビン間温度で26℃まで高めるように管理する必要があります。一般のきのこのように23℃前後の温度帯で管理した場合には、菌糸蔓延未完了の状態できのこが発生してしまうことがあります。また、「ひらたけ」は培養段階での気中菌糸の生育が旺盛であるため、キャップの通気性が悪い場合や培養室内の湿度が高過ぎる場合などには、ビン口表面を菌糸膜で覆ってしまうようになり、酸欠培養となって熟成が思うように進まなくなってしまうことがあります。そのため、キャップの通気性や培養室の湿度管理、さらには、種菌の接種量を必要以上に多くしないなど、酸欠培養とならないように注意することが大切です。
 なお、種菌の劣化による奇形症状については、自家増殖による性能不良が原因と思われますので、きのこ菌糸の生理特性上から予想される弊害のひとつであるため、栽培培地での拡大培養の繰り返しは行わないことが最大の予防策と言えます。

Q8.収量が伸びないのはなぜですか?

A.収量が伸びない最大の原因は、熟成不良です。十分な収量を確保するためには、培地内に菌糸が蔓延して菌糸密度が十分に高くなっていることが条件となります。すなわち、収量は菌糸体の量(密度)に正比例するのです。培地内へ十分に菌糸が蔓延していない菌床からは、高い収量を期待することはできません。菌糸体を十分に蔓延させるためには、オガコの粒度や含水率、栄養源の添加量や配合割合、培養工程での温度と換気の管理などが重要となります。これらの条件を上手く調整することで、菌糸が培地内へ十分に蔓延するようになって、子孫繁栄のための養分を菌糸体内に蓄えられるようになるのです。
 当然のことながら、菌糸伸長を阻害する有害菌のいないことが前提となりますので、培地の殺菌にも十分に注意する必要があります。このような条件をすべてクリヤーすることで、間違いなく高収量を確保することができるようになります。熟成不良の原因をしっかりと解明し、健全な菌床に仕上げるように配慮することで、収量は確実に伸びるようになります。

Q9.種菌を自家増殖するときのこが出なくなると聞きましたが、本当ですか?

A.「ひらたけ」の栽培を前提とした栄養源の配合割合は、他のきのこに比べてタンパク質(窒素源)の含有率が高い状態となっています。そのため、タンパク質の多い培地組成で種菌の自家増殖を繰り返した場合、C/N比(炭素と窒素の比率)のバランスが崩れてしまい、窒素源の分解に日数を要するようになることから、子実体の発生が徐々に悪くなってしまいます。栄養生長から生殖生長へ切り替わるためには、種々の条件が重要となりますが、最も大きな要因となるのは、培地の栄養状態です。培地の栄養状態が窒素飢餓状態にならないと子孫繁栄のための生殖生長へはシフトできないのです。すなわち、栽培のための窒素過剰培地でそのまま種菌の拡大培養を切り返したのでは、窒素の分解に時間を要するようになり、きのこを発生させるための栄養バランスにはなかなか達しないのです。このような栄養状態を何度も繰り返してしまうと、次第にきのこを発生させるための生殖生長への切り替えができなくなってしまいます。
 以上のような理由から、きのこの発生にタンパク質(窒素源)を多く必要とする「ひらたけ」においては、栽培培地で種菌の自家増殖を繰り返した場合、次第にきのこの発生が悪くなり、最終的には全く発生しないと言うことにもなり兼ねないのです。

Q10.日持ちを良くするための栄養源配合を教えてください

A.菌床栽培で作るきのこは、使用する栄養源の種類や配合割合によって発生するきのこの収量や品質が異なります。特に「ひらたけ」はその傾向が強く、生育工程での湿度管理よりも栄養源の配合割合の方が日持ちに大きく影響します。すなわち、日持ちの良好なきのこを収穫するためには、タンパク質系の栄養源を多く配合して栽培する必要があります。
 具体的には、糖質系栄養源(C源)が多くなると発芽数は多くなって増収となりますが、きのこの色が淡色化して肉質が軟弱となってしまう傾向があります。糖質系の代表的な栄養源としては、トウモロコシヌカやフスマなどがあります。逆に、タンパク質系栄養源(N源)は、芽数を多くする働きはありませんが、きのこの色を濃くして肉質が硬くなり、品質を向上させる働きがあります。タンパク質系の代表的な栄養源は、オカラや米ヌカなどです。
 それゆえ、良質のきのこを高収量で発生させるためには、C源とN源の組み合せが重要で、理論的にはC/N比で表示されます。理想的な菌糸培養時におけるC/N比は、20/1と言われています。しかし、C/N比を測定するためには高額な装置を必要とすることから、一般的な目安として、弊社では可溶性無窒素物(NFE)と粗タンパク質(CP)との比率、すなわちNFE/CP比を目安としています。可溶性無窒素物と粗タンパク質であれば、市販の飼料成分表で含有量を簡単に調べることができますので、自分で計算することが可能です。おおよその換算目安としては、C/N=20/1はNFE/CP=3/1(=3.0)に相当します。NFE/CP比が3.0よりも大きい値の栄養源は糖質系の栄養源で増収効果が期待でき、逆に3.0より小さい値の栄養源はタンパク質系の栄養源で、品質向上の効果が期待されます。
 以上のことから、日持ちの良好なきのこを栽培するためには、オカラや大豆粕などのタンパク質系の栄養源の添加割合を高め、できる限り低温で時間をかけて生育させるようにすることです。しかし、「ひらたけ」の場合は、過剰にN源を添加してしまうと傘の色がインク色となってしまい、商品価値を逆に低下させてしまう場合もあることから、N源の添加過剰には注意が必要です。

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