株式会社キノックス

原木しいたけの栽培相談コーナー

原木しいたけの栽培について、今までお問い合わせの多かった質問について解説いたしました。栽培するための参考にして下さい。

Q1. しいたけを自宅の軒下で育てたいのですが、管理方法を教えて下さい。

A. 原木栽培のポイントは、種駒を植菌してからの「仮伏せ管理」です。植菌後、直ちに本伏せしたのでは種駒が乾燥してしまい、上手く菌糸が活着しません。 きのこはカビの仲間ですので、湿度を好みますが、特に植菌後は原木に確実に菌糸を活着させるために、温度と湿度管理が重要となります。それゆえ、植菌後の仮伏せ管理は、必ず行うようにしてください。
仮伏せ以降の管理のポイントは、以下の通りです。
(本伏せ管理)
・1年目は温度優先で榾場の場所を選び、直射日光を当てないように日陰を作って、散水管理を行う。2年目以降に初めて山などへ移動し、通常管理を実施する(植菌初年度は自宅近くの空地等で管理する)。
・原木の水分を抜きながら菌糸を伸長させることが重要(完熟榾作りのポイント)。散水と乾燥の繰り返しにより、原木の新陳代謝(水抜け)を促進させるように管理する。
(発生管理)
・発生1ヶ月程度前の原基形成(芽作り)管理が重要。きのこが発生するようになってからの散水ではなく、芽作りが始まる1ヶ月前からの散水管理が特に重要となる。
・春の発生に関しては、前年秋の散水管理が重要で、9月の時期に1ヶ月程度を目安に、3日に1回程度の間隔で必ず夕方に榾木全体が十分濡れるよう散水を実施する。

Q2.仮伏せの効果と方法について教えて下さい

A.植菌した種駒を確実に活着させるためには、仮伏せ管理は必須です。しいたけ菌糸が伸長するためには、温度と湿度が特に重要となりますので、これらの条件を確保し、出来るだけ早期に菌糸を発菌・活着させる目的で仮伏せを実施します。具体的には、枕木の上に6段程度の密な井桁積みとし、原木全体に散水を行った後、保湿シート(新聞紙や段ボール)、寒冷紗、さらにブルー(ビニル)シートの三重構造で全体を包み込んで保温と保湿を図ります。期間は、梅雨が完全に明けるまで管理を継続しますが、仮伏せ内部温度に注意し、25℃を超すようになったらブルー(ビニル)シートを取り除き、本伏せに移行するまでヨシズと寒冷紗での日除け管理として下さい。

Q3.天地返しの効果と実施時期について教えて下さい

A.仮伏せの終了した植菌木は、原木全体に菌糸を蔓延させる目的で本伏せへ移行します。菌糸の蔓延には、温度と酸素の供給が重要で、梅雨明け後は温度的に20℃以上が継続するようになることから、この時期に原木内に酸素を供給する管理を心がける必要があります。具体的には、1週間に2回程度を目安に植菌木への散水と乾燥を繰り返し与え、材内部の新陳代謝を促進させることで、内部への酸素供給を図り、榾化を促進させます。その際に、植菌木内に満遍なく菌糸が蔓延し、榾化を均一に進めるために行う管理が「天地返し」です。具体的には、ヨロイ伏せとなっている植菌木の上下と表裏を反転させるように積み替えます。
天地返しを行うことで植菌木内の水分が抜け易くなり、しいたけの菌糸が良好に伸張できるようになります。実施時期は、しいたけの菌糸が旺盛に伸びる7~9月までの間に2回程度実施することが理想です。水抜けの悪い重い榾木は、積極的(月1回)に天地返しを行うことで、水抜けが良くなります。ただし、雨が少なく散水もできないような場合には、榾木が乾燥してしまい天地返しが逆効果となる場合もありますので注意して下さい。

Q4.榾木を初めて浸水発生させる時期を見極める方法について教えて下さい

A.浸水の適期を見極める方法は、「試験浸水」を行うことです。大量の榾木を浸水する前に、榾木を10本程度無作為に抽出して浸水します。芽切りの状態を確認して良好であれば、直ちに本浸水を実施して下さい。一度形成された原基には生存のサイクルがありますので、特に外気温の高い時期などは本浸水のタイミングが重要となります。試験浸水後に期間をおいてしまいますと原基が死滅してしまって本浸水で発生しない場合もありますので、芽切り確認後は早めに浸水するように心がけて下さい。発生不良の場合には、散水と保温(冬期間)を20日間程度を目安に行い、原基形成のための休養管理を実施した後に試験浸水で発生を確認してから使用して下さい。

Q5.榾木の休養期間について教えて下さい

A.しいたけの原基の生育には、2つのパターンがあります。高温系の品種は、短期間に比較的集中して原基が生育しますが、低温系の品種は長期にわたって分散的に生育する傾向があります。それゆえ、品種によって休養期間が異なります。高温系の品種は、収穫の都度、原基形成を前提とした休養管理が必要となるため、休養期間は30~40日間と長めに必要です。低温系の品種は、収穫後でも原基がまだ残った状態となっておりますので、長めの休養は不要です。榾木内の養分(水分)の偏りが回復すれば再使用できるようになりますので、15~20日間の休養期間(長期の休養はきのこ発生の原因となる)で十分です。
具体的な休養の管理方法としては、20℃前後の温度帯で、榾木の重さが収穫前の8割程度に回復するのを目安に十分に散水を実施し、菌糸の活力の回復と原基の形成を促すようにします。なお、発生が悪く、重い榾木は水を吸い過ぎてしまいますので、散水を控えめにして下さい。休養管理は、短期間に菌糸を復活させて活性化させる工程ですので、温度管理が重要であるため、できるだけ所定の温度を維持するように心がけて下さい。

Q6.年によって発生にバラツキがあるのですが、原因は何ですが?

A.榾化の遅れ(熟度不足)が原因です。きのこが発生するためには、原木内に十分に菌糸が蔓延し、菌糸体内に養分を蓄積させる必要があります。植菌後の管理を自然任せにしたのでは、活着や菌糸伸長が遅れ、害菌等の侵入を招いてしまい、榾付率が悪くなってしまいます。榾化の悪いものはきのこの発生も良くありません。そのため、毎年安定してしいたけを発生させるためには、春の植菌後の仮伏せ管理でしっかりと菌糸を原木に活着させ、夏場の本伏せ管理で十分な菌糸の蔓延を図って榾化を促進させることが重要です。
仮伏せ(保湿と保温が重要)と本伏せ(温度と榾木からの水抜けが重要)を人為的にコントロールすることで、榾化が安定し、結果的にきのこの発生も良好となります。
なお、榾化が進んでいても秋の原基形成時の水分管理が不適切な場合には、やはりきのこの発生が悪くなりますので、植菌2年目の秋の散水も重要な管理です。やはり、この時期も天候任せではなく、3日に1回程度の間隔で、夕方に十分榾木が濡れるような散水を行って下さい。期間は、約1ヶ月が目安です。

Q7.夏場の発生が思わしくないのですが?

A.きのこが発生しない原因としては、きのこの元である「原基」が形成されていない場合と「原基」の肥大生長のための刺激が足りない場合の2つの原因が考えられます。
①刺激が足りない場合の対応策
きのこの発生には、温度差、移動刺激、窒息や切断等の刺激、水分供給が必要です。生育のための水分供給を行っても発生しない場合には、他の刺激を追加することが効果的です。
しいたけの場合、温度や移動刺激、更には窒息刺激等の追加刺激を効果的に与える手段として、浸水操作があります。出切るだけ冷たい水(20℃以下で、掛け流し状態)に、運搬した直後の榾木を漬け込んでみて下さい。浸水時間は、真夏で1晩程度が目安です。
ただし、水没させて窒息状態を維持することが目的ですので、榾木が水面に浮いて来ないように、しっかりと重石を行って下さい。この操作できのこが発生しない場合には、原基形成が成されていない可能性が高いと思われます。
②原基が形成されていない場合の対応策
原基が形成されていない榾木を無理に浸水等の刺激を与えても、きのこは発生してきません。原基形成のための休養管理を行ってから、発生操作を行う必要があります。
原基形成のための条件は、以下の通りです。
  ・温度:15~25℃(理想条件)
  ・水分:50~70%
  ・光  :0.5~2.0Lx(樹皮下の菌糸が感じる光)
上記の条件が揃えば、1ヶ月(条件が良ければ約20日間)程度で新しい「原基」が形成されるようになります。ただし、これらの条件の前提は、「健全な榾木」に仕上がっていることが前提ですので、榾化が悪く、熟成の進んでいない榾木の場合には、必ずしも当てはまりませんので、注意が必要です。その場合には、むしろ榾木作りを見直し、管理方法を改善する必要があります。

Q8.発生方法で発生量や大きさの調整は可能ですか?

A.きのこの大きさは、一般的に発生個数に反比例します。すなわち、発生個数が少ない場合には大型のきのことなり、多い場合には小さなきのことなってしまいます。それゆえ、原木栽培においては浸水方法や浸水条件により、きのこの大きさを調整することが可能です。具体的には、榾場から移動後直ちに浸水したり、榾木に打撲刺激を与えてから浸水した場合には、発生量が多くなり、きのこは小型化します。また、浸水温度が10℃以下と低かったり、時間が長い場合には発生量が多くなります。さらには、浸水前の榾木に散水して原基形成を積極的に促したり、浸水後に芽出し操作を行って原基の活動を旺盛にした場合にも発生量は多くなる傾向にあります。すなわち、移動や運搬などによる機械的刺激、あるいは浸水による温度や酸欠刺激などの物理的刺激を複数組み合せて菌糸により強いストレスを与えることで、きのこは発生量が多くなる傾向にあります。それゆえ、しいたけの発生個数を調整することで、きのこの大きさを変えることが可能となるのです。ただし、しいたけの発生個数は榾付率によっても異なりますので、大きさを調整するためには、十分な栄養条件を整えた完熟榾木に仕上がっていることが重要な前提条件となりますので、榾作りをしっかりと行う必要があります。

Q9.ナラ枯れの被害木はしいたけ栽培に使用できますか?

A.「ナラ枯れ」と言うのは、体長5mm程度のカシノナガキクイムシという南方系の昆虫が「Raffaelea quercivoria」と呼ばれる「病原菌」を伝播してナラ類やカシ類などの健全なブナ科の樹木が集団で枯死してしまう樹病被害のことです。この病原菌にはまだ正式な和名がないことから、通称「ナラ菌」と呼ばれており、ナラタケとの関連を連想してしまいますが、キノコとは無関係の「カビ」の仲間なのです。ナラ枯れの被害拡大は、地球温暖化が大きく影響していると言われており、これまでは京都や兵庫など西日本の日本海側、さらには新潟や秋田、山形など日本海側に被害が集中していましたが、近年では宮城県でも発生が確認されるようになり、全国的に被害が拡大しています。カシノナガキクイムシは、ナラ菌と共生する「酵母」を食料(餌)としていると言われています。ナラ枯れ被害木によるしいたけ栽培については、以下のような研究報告がなされています。
・ナラ菌は、しいたけ菌糸の伸長に悪影響を及ぼさない。
・ナラ菌は木材腐朽力がしいたけの1/10程度と弱い。
・ナラ菌が生息していてもしいたけ菌糸の生長に影響しない。
・原木栽培においては、しいたけとナラ菌は「帯線」を形成する。
・帯線を形成した榾木は、榾付率が低下して収量が減少する。
・被害木を11月までの通常より早期の植菌を実施することで、榾付率を高めることが可能である。
よって、しいたけ原木栽培に関しては、通常よりも植菌時期を早めることで、枯死木の利用が可能であると言われています。因みに、菌床栽培では殺菌処理を行うことから、枯死木はすべてのきのこの栽培に利用可能です。
ただし、枯死木からはカシノナガキクイムシは飛散して居なくなったように見えても、内部に入り込んだまま残存している可能性もあることから、被害木の移動を避けて、被害地域内での使用に留めるようにすべきとの指摘もありますので、原木として使用する場合には取り扱いに注意が必要です。

Q10.変形きのこが多く発生するのはなぜですか?

A.変形きのこや奇形きのこが発生する理由としては、物理的要因と生理的要因の2つの原因が考えられます。物理的要因としては、乾燥により樹皮が硬化してしまった場合や接種孔が乾いた場合(成型種菌)、さらにはきのこの生長期に乾燥してしまって奇形となる場合があります。この場合には、事前に榾木に定期的な散水を行い、しいたけが発生し易いように樹皮を軟化させる、あるいは成型種菌の場合には接種孔の種菌の含水率を高めてやることが効果的です。生育時に乾燥する場合には、床(地面)に散水してからビニルシートで被覆すると保湿と保温が図られ、乾燥防止となります。生理的要因としては、未熟榾木による奇形子実体の発生です。傘の変形が一般的ですが、時には、全く傘を形成せずに柄だけの奇形きのこ(ボウズ茸)が発生する場合もあります。この場合には、榾化不良によるしいたけ菌糸への養分蓄積の不足が原因ですので、無理に発生させずにハウス内で定期的な散水管理により保温と保湿を図りながら(榾場管理の場合は、翌年に使用する)、十分に榾木の熟度を高めてから(榾化促進させてから)使用するようにして下さい。

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