株式会社キノックス

エリンギの栽培相談コーナー

エリンギの栽培について、今までお問い合わせの多かった質問について解説いたしました。栽培するための参考にして下さい。

Q1. 原基の生育が思わしくないのですが?

A. 原基が正常に生長しない障害(原基から気中菌糸が発生するなどの症状)は、生育管理上の問題よりも、培養管理における熟成不良が直接の原因と思われます。熟成不良を引き起こす要因についてはいろいろ考えられますが、主な原因は、以下の通りです。
1)殺菌不良によるバクテリア障害
菌掻き後に着色した水(発芽水)が発生するようであれば、殺菌不良が考えられます。また、被害の程度が多い場合には、殺菌不良に起因する場合が多い傾向にあります。
2)酸欠培養による熟成障害
キャップの通気性、あるいは培養中期の換気不足による酸欠症状により、熟成障害を生じている場合があります。ウレタンフィルター式のキャップを使用している場合には、特に目詰りに注意が必要です。
3)培養中期における高温培養での熟成障害
エリンギは、ビン間温度が26℃を越すようになると菌糸伸長が悪くなり、熟成障害を生じるようになります。特に、接種後15~20日目のビン間温度には注意が必要です。
4)累積温度不足による未熟症状
冬期間の加温(温度)不足により、未熟症状として発現する場合があります。暖房設備のない施設においては、累積温度に注意が必要です。
5)内部酸欠による熟成障害
栄養源の添加量やオガコの粒度等で菌床内部が酸欠状態となってしまい、菌糸伸長に障害を生じた結果、熟成不良となる場合があります。栄養源の添加過多(80g以上/850ccビン)や粒度の細かいオガコの充填過多にならないよう注意が必要です。

Q2.同一室内で芽出しと生育を行う場合の温度と湿度管理について教えてください。

A.エリンギ栽培における生育時の病害感染は、ほとんどが芽出し時の感染が原因となっていることから、芽出しの部屋と胞子が飛散する生育の部屋とは分けて管理することが理想です。やむを得ず同一の部屋で管理する場合には、以下の点に注意する必要があります。
1)管理形態
同一の部屋内で管理することから、棚の上部を芽出しに使用し、下部の棚で生育管理を行うという具合に、発生棚の上下で使い分けて管理を行うようにします。
2)温度管理
芽出しと生育の管理を同一の部屋で実施することから、生育に合わせた14~16℃の温度で管理します。棚の上下では温度差があるため、上段を生育、下段を芽出しとした方が温度的には管理し易いのですが、胞子飛散による汚染や収穫作業性などを考慮した場合、逆パターンでの管理が理想となります。
3)湿度管理
湿度もやはり生育に合わせて管理(60~98%の範囲)します。ただし、菌掻き直後の菌床を最初から生育湿度環境のような低湿度下で管理した場合、発芽不良の原因となり易いことから、原基が形成されるまでは新聞紙等で被覆を行い、菌床表面を乾燥させないように管理します。

Q3.エリンギの奇形症状の原因について教えてください。

A.エリンギの奇形が発症する要因としては、いろいろ考えられますが、主な原因としては、以下のようなことが考えられます。
 [1]熟成障害
 [2]菌床表面の乾燥
 [3]菌床上部の収縮によるビン中発生
 [4]生育時のCO2障害
 [5]病害菌の感染
[1]の熟成障害による奇形茸発生が一般的ですが、その主な原因としては、Q1の回答を参考にして下さい。
[2]の菌床表面の乾燥が原因の場合には、芽出し初期の乾燥に注意が必要です。菌掻き直後の菌床表面が乾燥してしまった場合には、不発生となることもあります。菌糸が再生するまでは、しっかりと加湿を行うようにしてください。
[3]のビン中発生の原因としては、培地収縮が考えられます。特にオカラを多く使用することで生じ易い現象ですので、水分を控えめとし、ビン肩が隙かないようにやや固詰めにすることで対策は可能です。オカラ使用は収量アップに効果的ですが、殺菌終了後に培地が収縮し易いことから、培地調製時には特に注意が必要となります。
[4]のCO2障害の場合は、生育室の換気管理を改善する必要があります。エリンギは生育室のCO2を高めに管理して柄が長くなるように栽培しますが、高過ぎる(3,000ppm以上)場合には、傘奇形を生じるようになります。傘の形状を見ながらCO2濃度を調整する必要があります。
[5]の病害菌による傘奇形の場合には、室内の消毒以外に、培養管理を見直す必要があります。室内消毒で一時的に改善はしますが、根本的な対策にはなりません。
培養管理に問題があって健全な菌床に仕上がっていないことが主因ですので、殺菌工程を含め、換気や温度管理などの培養管理工程([1]と同様の原因)を検証し、原因を根本から究明する必要があります。

Q4.養分の自己消化(老熟)について教えてください。

A.自己消化現象は、きのこの培養において温度の上昇とともに、常に生じている現象です。ただし、より高温になることで、自己消化率が高まる(経済係数が低下する)傾向にあります。つまり、高温で培養することで菌糸伸長は早くなる傾向にありますが、養分の消費も多くなることから、菌体内へ蓄積される養分は思うように増えません。菌糸体内での養分の自己消化は常に起きている現象で、菌糸の伸長速度と自己消化との兼ね合いから、経験的にその菌糸体(きのこ)の培養適温を決定しているのです。それゆえ、菌糸体の伸長最適温度は、決して栽培における培養適温とはなりません。菌糸伸長の適温は自己消化率が高いことから、菌糸密度(養分蓄積)の増加適温とは一致しないのです。一般的には3~10℃の較差があり、菌糸体内の養分の蓄積を多くするためには、菌糸伸張適温よりも低い温度帯で培養する必要があります。
きのこの人工栽培は、短期間に如何に高収量を上げるかが重要ですので、菌糸密度を早期に高める必要があります。そのためには、菌糸を早く蔓延させる管理よりも、菌糸密度を高める、言い換えれば菌糸体内に蓄積される養分が多くなる培養管理が重要なのです。一般的に言われる「高温障害」は、菌糸伸長に悪影響を与える温度帯での培養のことですが、養分蓄積の面(経済係数)から見た場合、菌糸伸長適温での培養は、外観上の菌糸伸長に何ら影響を与えることのないように思われますが、菌糸は自己消化を誘発し、養分蓄積の整った健全な菌床には仕上がっていないのです。培養管理における菌床の仕上がり状態は、収量なり耐病性に大きく影響しますので、きのこ栽培における培養の温度管理は大変重要で、如何に健全な菌床に仕上げるかが、安定発生のための大きなポイントとなります。

Q5.オゾンを使用する殺菌方法について教えてください。

A.オゾンによる殺菌は、一般的に空気を原料としてオゾン発生器によって酸化力の強いオゾンガス(O3)を発生させて、空気や水を殺菌する方法で、装置があればどこでもガスの発生が可能なことから、欧米などで普及した殺菌方法です。名前の由来は、特有の青臭い刺激臭を持つことから、ギリシア語のOzein(におう)に因んで命名されました。強い酸化力(酸化作用)によって直接的に微生物を殺滅しますが、高濃度では人体にも吸引による呼吸器系の損傷などの有害な影響を与えますので、取り扱いには注意が必要です。
きのこ栽培で使用する場合には、菌糸にも悪影響を与えますので、培養室や発生室などきのこの菌糸の存在下での使用は禁物です。特に接種直後の培養室での使用は厳禁で、接種した菌糸が変異や死滅してしまう可能性があります。また、芽出し初期の使用は着色や奇形茸発生の原因となり兼ねませんので注意して下さい。参考までに、オゾンの使用マニュアルは、以下の通りです。
(オゾン使用マニュアル)
・使用方法:1.0ppm濃度で、4時間以上(8時間目安)の処理で効果を発揮する。
・環境湿度:50~80%(高過ぎ、低過ぎは効果減少)。乾燥し過ぎに注意する。
・有害性:人体に対しても有害であることから、入室は0.1ppm以下の濃度まで低下してから行う。
※0.1ppm濃度になる目安は、自然開放で5~6時間が必要です。また、強制換気の場合には、90分程度の時間が必要となります。
エリンギに対するオゾンガスの影響についての試験報告はありませんが、生育室に使用した場合、残留ガス障害で着色症状、生育異常が発現する可能性がありますので、菌床の入れ替え時に使用する場合には、残留濃度を必ずチェックするようにして下さい。

Q6.種菌の発菌不良の原因について教えてください。

A.エリンギは腐生菌に属するきのこですが、しいたけやなめこなどのように木材を分解・腐朽するきのことは異なるため、コーンコブやコットンハルを全く使用しない場合には、発菌力が劣る傾向にあります。そのため、接種時に種菌の接種量を多めとすることが重要です。接種量が少ない場合には、種菌が培地に開けた穴に落ちてしまい、表面に残る種菌量が少ないために乾燥障害などで不活着症状(発菌不良)を起こし易くなります。発菌不良や発菌遅れは培養初期の害菌混入の原因となりますので、接種量を増やす、あるいはもう少し大きな塊で接種して表面全体に種菌を蒔くようにして下さい。
表面の種菌量が多くなれば、発菌不良は比較的簡単に解決すると思われます。特に、通気性良好なキャップで、種菌の接種量が少ない場合は、接種源が乾燥してしまい、発菌が悪くなることが考えられます。また、種菌が老化している場合も発菌不良となることがありますので、拡大種菌の培養齢にも注意が必要です。種菌の適正培養日数は、一般的にその品種の栽培における適正培養日数が目安となります。

Q7.菌床表面やきのこの柄が黄褐色に着色してしまうのはなぜですか?

A.酵母菌による汚染症状で、近年エリンギ栽培で増加傾向にあります。芽出し時の菌床表面の着色や生育きのこの菌柄の着色状況として発病し、収穫目前にして壊滅的な被害を被ることもあります。原因としては、芽出し時における酵母汚染が考えられます。エリンギは胞子飛散量の多いきのこですので、生育室自体がかなり酵母菌によって2次的に汚染を受けている可能性が高いと思われますので、菌床の入れ替え都度の室内洗浄を徹底し、さらには、定期的に次亜塩素酸系殺菌剤等を使用して消毒を行って下さい。特に芽出し段階での感染の可能性が高い傾向にあることから、芽出し工程は生育と別途に管理することが理想です。
また、病害発生は菌床の仕上がり状態でも異なりますので、培養における菌床管理を適正に行い、健全な菌床作りを心がける必要があります。特に培養温度が高い場合には、様々な弊害を生じ易くなりますので、ビン間温度は26℃を越さないように管理することが肝要です。培養湿度は60%程度と従来よりも低めで管理することで、健全な菌床仕上がりとなることが、最近の試験結果で判明しております。高湿度下での培養は、気中菌糸の発生が旺盛となって酸欠培養となってしまい、空気中の酸素量も減少することから、特にエリンギの培養においては、結果が思わしくないようです。

Q8.エリンギの袋栽培の発生方法について教えてください。

A.エリンギの袋栽培での発生処理には、3通りの方法があります。上面の袋をカットする方法とカットせずに袋口を立てて開放する方法、さらには上面からではなくて菌床底部から発生させる方法です。生育温度や湿度管理は基本的にビン栽培と同様で、温度12~18℃(病害予防の目的で、20℃以下)、湿度60~98%で管理します。
1)袋口を立てて開放する発生方法
袋口を立てた状態で管理することから、菌床表面は乾燥しませんので、加湿管理がもっとも容易な発生方法です。袋内面に結露するようでは、加湿過多による病害発生が懸念されますので、袋内の結露状況を見ながら管理するようにします。また、生育時においてもそのまま袋内で生長を継続させることで、ガス環境が高くなり、傘は小さくなりますが、柄の長い大型のエリンギが収穫出来ます。
2)上面の袋をカットする発生方法
袋の上部を切り離し、新聞紙等で被って発生させる方法です。菌床上部を完全に裸出させることから、発芽数が多くなる傾向にあります。菌床表面も乾燥し易くなりますので、加湿器を使用した管理が必要で、菌床表面には水を溜めないように注意して下さい。表面に水が溜まらないよう新聞紙等で覆うことで、管理が楽になります。新聞紙の乾燥具合を見ながら、乾いたら加湿するように管理することで発芽過多を抑制することが可能となります。発生面積が広いため、発芽数が多くなり、きのこが小型化してしまう傾向がありますので、発芽状況によっては芽掻きが必要となります。
3)菌床底部からの発生方法
菌床上面をカットせずに、上下を逆転させて袋底部に袋の上から直接カッターで菌床に切れ込みを入れて、発生部位を限定して発生させる方法です。菌床が直接外気に接触しないことから、害菌類の感染が少なく、しかも加湿もほとんど不要であることから、もっとも安全な栽培方法です。切れ込み部が乾燥する場合には、原基が形成されるまでの間、新聞紙で覆って管理します。発芽が限定されることから、株状で大型のきのこが収穫できるようになります。
袋栽培での全体的な注意点としては、累積汚染による病害発生が多いことから、日常的に室内の清掃管理を徹底させることです。収穫終了後は毎日室内の水洗いを実施するように心がけて下さい。また、湿度管理は、生育時の病害感染を抑制するための重要な管理ですので、数字的には60~98%の範囲内で、大きく乾/湿の差を付けて管理することが重要です。具体的には、日中は加湿器を停止状態とし、夜間のみ95%以上で自動管理するような、極端な湿度較差を付けるように心がけ、袋に水が溜まらないように加湿調整を行いながら管理することがポイントとなります。

Q9.柄を長く伸ばす方法について教えてください。

A.きのこは環境によって柄が長くなったり、傘が大きくなったりと形状が変化します。傘と柄の生育に関しては反比例の関係にあり、柄が長くなると傘は自動的に小さくなってしまいます。形状の変化に影響を与える条件は、光とCO2濃度が大きな要因となり、これら2つの条件を上手くコントロールすることで、形状の変化に富んだきのこを意図的に発生させることが可能となります。具体的には、照度が弱く、高いCO2濃度下においては、傘が小さくて柄の長い形状のきのことなります。エリンギは胞子の飛散量が多く、傘よりも柄の方が歯触り良好で美味しいきのこですので、傘をできるだけ小さくして胞子飛散を抑制し、柄が長くなるように生育環境をコントロールして商品化されています。
柄を長くするための具体的な管理方法としては、芽出し後に芽掻きを行ってきのこの生育本数を1~3本に調整(品種によっては芽掻き不要)し、生育室の照度を300Lx以内として不要な点灯を避け、CO2濃度は3,000~5,000ppmの範囲で管理するようにします。生育温度をやや高めの18℃程度に設定することで、柄をさらに徒長させることも可能です。CO2の濃度が高くなればなるほど傘が小さくて柄の巨大なきのことなりますが、市場出荷が難しくなりますので、販売方法を考慮に入れて形状を決める必要があります。

Q10.生育時の病害対策について教えてください。

A.エリンギは芽出し初期の病害に弱いきのこですので、原基形成時におけるバクテリア感染が原因で、病兆を生じてしまう傾向があります。対策としては、芽出し時の加湿量を抑制することで症状の軽減を図ることが可能です。特に、季節の変り目の時期は、夏場と異なりクーラーの稼働時間が短くなることから、夏場同様の湿度管理では加湿過多となってしまい、種々の病害発生の原因となってしまいます。きのこ全般に言えることですが、きのことカビは同じ仲間ですので、常時高湿度環境下で管理した場合には、必ず害菌が発生する原因となります。カビの発生を抑制してきのこのみを順調に生育させるためには、湿度コントロールが極めて重要となります。すなわち、乾/湿の湿度較差を大きく付けて管理することです。特にエリンギに関しては、もともと乾燥に強いきのこですので、湿度較差を大きく付けた管理は病害予防に有効に作用します。
芽出し時以外の病害感染の原因については、培養管理で適正な熟度の菌床に仕上がっていない可能性が考えられます。未熟菌床となってしまう原因については、種々の要因が考えられますが、主な原因としては、殺菌不良と放冷工程における戻り空気汚染、さらには培養中期における酸欠症状などです。培養で健全な菌床に仕上げるように管理することは、病害に強い菌床を作ることに繋がります。健全な菌床は病害菌を寄せ付けませんので、適正な培養管理で丈夫な菌床作りを心がけることが、病害対策の基本なのです。

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