株式会社キノックス

専増産フスマ制度について

 フスマは、小麦を製粉する際に除かれる外皮部と胚芽からなる副産物で、日本では主に家畜の飼料として利用されている。栄養的には繊維質やミネラルが豊富に含まれている他、一緒に除去される小麦のデンプンも多く含まれるため、キノコ栽培での栄養体(C源)としても使用されている。これまでのフスマには「専管フスマ」と「増産フスマ」さらには「一般フスマ」の3種類があり、それぞれによって小麦粉の含有量が異なる商品となっている。キノコ栽培においては、特に空調栽培などの短期栽培の場合、一定期間内にできるだけ菌糸体内へ養分を蓄積させる必要があるため、栄養体としてはできるだけ糖質(C源)の多いものが好んで使用されており、トウモロコシヌカや大麦ヌカと同様フスマが多く使用されている。 後述するように、フスマには政府の畜産振興上の理由から食糧用との区別を図る目的で、製粉工場を指定して製造してきた経緯があった。しかし、様々な社会情勢の変化に伴い専増産フスマ制度の廃止や畜産品の輸入圧力の影響でフスマ類の需要が減少したことから、一般フスマ以外のフスマの入手が困難な状況となってきている。以下に、これまでのフスマの製造に係わる歴史的な流れについて概略を説明する。 第2次世界大戦後の日本の畜産は、経営の安定化を図るため飼料の需給と価格の安定化を図る目的で、1952年12月に飼料需給安定法を制定し、政府が飼料需給計画を作成して輸入飼料の買入や売渡を行っていた。同法の下で制定された専増産フスマ制度は、飼料用フスマの量産を目的に輸入小麦を原料として製粉工場に通常よりも低い小麦粉歩留率(小麦外皮の除去割合)で製粉を行わせるための戦後日本独特の製粉制度となっていた。同制度には、①1958年2月に発足したフスマ増産を目的とした製粉のみを行い、その他の兼業を禁止した「専管工場」を指定して、その工場にフスマの製造を行わせる「専管フスマ制度」と、②1959年2月発足の専管工場以外の一般製粉工場の一部を「フスマ増産工場」として指定し、同工場内に毎月の一定日数についてフスマの製粉を行わせる「増産フスマ制度」からなっていた。そのため、専管フスマ制度の下で生産されたフスマを「専管フスマ」、増産フスマ制度によるものを「増産フスマ」、さらには指定外の一般製粉工場によるものを「一般フスマ」と呼んで区別できるようにしていたのである。 一般製粉の小麦粉歩留率は、約78%であるのに対し、専増産フスマ制度の歩留率は40~45%まで外皮を除去するため、小麦粉の含まれる割合が高くなっている。また、価格的には政府の畜産振興の目的で、飼料用フスマとして食糧用輸入小麦よりも低い価格水準に設定されてきた。 1985年9月の「プラザ合意」を受けた円高と農産物輸入拡大政策の進展によって80年代後半以降畜産物の輸入が増加するようになったことで、国内の畜産物生産は縮小に向かい、飼料の国内需要も減少に転じるようになった。 1991年の牛肉輸入自由化、1995年4加盟による乳製品輸入自由化と畜産品の関税率引き下げなどによって国内の畜産業が更に圧迫されるようになったことで、協定加盟後は政府の一元体制が崩壊し、民間貿易による麦の輸入へと切り替わった。その結果、国産飼料から輸入飼料へ、粗飼料から濃厚飼料へ、単体飼料から配合飼料へと需要が変化することとなったのである。 1998年5月に公表された「新たな麦政策大綱」では、食糧用麦と飼料用麦に関しての制度が改編され、これまでの政府経由の流通から民間流通に一挙に移行し、飼料用麦に関しては、濃厚飼料における専増産フスマの割合の減少と制度下でのフスマの生産・供給上の諸問題などを理由に「専増産フスマ制度 も廃止(2002年12月)されることとなった。また、近年のTPPなどの経済連携協定交渉(2017年1月)などにより、協定締結国からの飼料用麦の輸入を民間貿易に移行させると言う輸入制度の大幅な改変も行われた。このような「大綱」改編の中、飼料用小麦が輸入への依存傾向を一層強めることとなり、近年の諸物価の高騰と相まって一般フスマを除くこれまでの専増産フスマは、ほとんど製粉されない状況となってきたのである。 専増産フスマ制度の廃止に伴い、民間製粉工場で専管フスマに近い小麦粉歩留率で代替フスマが製造されたこともあった。しかし、製粉会社による小麦粉歩留率に違いが大きく、どの会社の製品でも使用可能な状況ではなかったため、キノコ栽培においては専管フスマに近い成分の商品を選択して使用する必要があった。弊社で調査した結果においては、図1に示す通りこれまでの専管フスマに最も近い成分(NFE/CP=4.3)の商品は3種類ほどしかないことが判った。安定したキノコの発生のためには、しっかりと成分を吟味して使用することが重要である。しかし、小麦をめぐる近年の世界情勢の変化や物価高騰の影響などで代替フスマの入手も徐々に困難となってきたことから、他の増収材と組み合せることなどを前提に、入手の容易な一般フスマの使用を進めることにしたのである。

NFE:可溶性無窒素物 CP:粗タンパク質

(参考文献) 岩手大学人文社会科学部紀要(1998年、第63号) 岩手大学人文社会科学部紀要(2019年、第104号)