きのこの豆知識・その1 きのこの食生活 きのこの菌糸には動物のような物を食べるための口がある訳ではなく、植物のように光合成を行うための葉緑素を持っている訳でもないことから、一体どのようにして生活に必要な栄養を取り入れているのでしょうか? 実は、きのこは近年のDNAを使った分子系統学的研究の結果、動物にかなり近縁な生物であることが判明したのですが、動物のように口から食べたものを体内で消化するのではなく、体の表面から分泌した酵素(消化液)によって体外で「餌」となる基物を分解・消化し、体内に取り込んでいるのです。それゆえ、このような体外消化の養分吸収システムを持っているきのこの菌糸は、食べ物を体の中に取り込む必要がないことから、どんなに巨大な物体(餌)であっても隙間から入り込むことにより、分解(腐朽)して食べることができるのです。 きのこ(正確には菌糸)の食生活としての養分の摂り方は、大きく2つの方法に分かれます。具体的には、ものを腐らせて栄養を吸収する「腐生」と植物と共生関係を結んで栄養のやり取りを行う「共生」の2つのタイプがあります。もともと、菌類は腐生型の栄養摂取を行う生物として地球上に登場し、進化の過程で後から樹木の根との共生(菌根共生)生活の手段を獲得したと言われています。それゆえ、本来であれば菌根性のきのこは腐生型の生活ができるはずなのですが、長い年月の間に種によって植物に対する依存度合いに差が生じた結果、マツタケのように共生する相手がいないと生きて行けなくなってしまったきのこも多いのです。 きのこの最も基本的な暮らし方である腐生型の食生活は、森の中の倒木や落葉などの植物遺体中のリグニンやセルロースと言う難分解性の物質を体(菌糸)の外で分解し、効率良く体内に取り込んで養分とします。 また、菌根との共生型のきのこは、樹木などの植物と栄養物質のやり取りを行うことで生活しているのです。菌糸は植物からの光合成産物である養分をもらう代わりに、植物へは窒素やリン酸などの無機塩類と水を与えるのです。樹木との共生生活は、長い年月をかけて互いに進化しながら築き上げてきた関係であることから、マツタケはマツ林とツガ林などモミタケはモミ林、ハナイグチはカラマツ林など特定の樹木との強い結びつきを持つようになったのです。 共生関係に含まれる暮らし方の中に「寄生」と言われるもうひとつの生活様式があります。共生関係は互いにメリットのある生活様式ですが、寄生は生きた植物や動物、さらには菌類から一方的に生活に必要な養分を奪い取る暮らし方(病原型)です。大型の子実体を形成するものは少ないのですが、代表的なきのことしては、ヤグラタケ(ベニタケ科のきのこに寄生する担子菌)、ニオイオオタマシメジ(コガネタケに寄生する担子菌)、タマノリイグチ(ツチグリに寄生する担子菌)、冬虫夏草(昆虫に寄生する子のう菌)、タンポタケ(ツチダンゴに寄生する子のう菌)などがあり、宿主となるきのこなどに寄生して養分を吸収しながら子実体を発生させます。このような病原型の寄生菌類は、自然界での耐性のないものを自然淘汰するための「執行者」の役割を担っていると言われています。木材の道管の壁孔を通過する菌糸の電子顕微鏡写真図引用文献 きのこと木材―きのこの生物学シリーズ6―(1989年) 著者:高橋旨象、発行所:築地書館 ◆ きのこの豆知識 目次ページへ戻る ◆
きのこの食生活
きのこの菌糸には動物のような物を食べるための口がある訳ではなく、植物のように光合成を行うための葉緑素を持っている訳でもないことから、一体どのようにして生活に必要な栄養を取り入れているのでしょうか? 実は、きのこは近年のDNAを使った分子系統学的研究の結果、動物にかなり近縁な生物であることが判明したのですが、動物のように口から食べたものを体内で消化するのではなく、体の表面から分泌した酵素(消化液)によって体外で「餌」となる基物を分解・消化し、体内に取り込んでいるのです。それゆえ、このような体外消化の養分吸収システムを持っているきのこの菌糸は、食べ物を体の中に取り込む必要がないことから、どんなに巨大な物体(餌)であっても隙間から入り込むことにより、分解(腐朽)して食べることができるのです。
きのこ(正確には菌糸)の食生活としての養分の摂り方は、大きく2つの方法に分かれます。具体的には、ものを腐らせて栄養を吸収する「腐生」と植物と共生関係を結んで栄養のやり取りを行う「共生」の2つのタイプがあります。もともと、菌類は腐生型の栄養摂取を行う生物として地球上に登場し、進化の過程で後から樹木の根との共生(菌根共生)生活の手段を獲得したと言われています。それゆえ、本来であれば菌根性のきのこは腐生型の生活ができるはずなのですが、長い年月の間に種によって植物に対する依存度合いに差が生じた結果、マツタケのように共生する相手がいないと生きて行けなくなってしまったきのこも多いのです。
きのこの最も基本的な暮らし方である腐生型の食生活は、森の中の倒木や落葉などの植物遺体中のリグニンやセルロースと言う難分解性の物質を体(菌糸)の外で分解し、効率良く体内に取り込んで養分とします。
また、菌根との共生型のきのこは、樹木などの植物と栄養物質のやり取りを行うことで生活しているのです。菌糸は植物からの光合成産物である養分をもらう代わりに、植物へは窒素やリン酸などの無機塩類と水を与えるのです。樹木との共生生活は、長い年月をかけて互いに進化しながら築き上げてきた関係であることから、マツタケはマツ林とツガ林などモミタケはモミ林、ハナイグチはカラマツ林など特定の樹木との強い結びつきを持つようになったのです。
共生関係に含まれる暮らし方の中に「寄生」と言われるもうひとつの生活様式があります。共生関係は互いにメリットのある生活様式ですが、寄生は生きた植物や動物、さらには菌類から一方的に生活に必要な養分を奪い取る暮らし方(病原型)です。大型の子実体を形成するものは少ないのですが、代表的なきのことしては、ヤグラタケ(ベニタケ科のきのこに寄生する担子菌)、ニオイオオタマシメジ(コガネタケに寄生する担子菌)、タマノリイグチ(ツチグリに寄生する担子菌)、冬虫夏草(昆虫に寄生する子のう菌)、タンポタケ(ツチダンゴに寄生する子のう菌)などがあり、宿主となるきのこなどに寄生して養分を吸収しながら子実体を発生させます。このような病原型の寄生菌類は、自然界での耐性のないものを自然淘汰するための「執行者」の役割を担っていると言われています。
木材の道管の壁孔を通過する菌糸の電子顕微鏡写真
図引用文献
きのこと木材―きのこの生物学シリーズ6―(1989年)
著者:高橋旨象、発行所:築地書館