株式会社キノックス

きのこの豆知識・その2

きのこの色

自然界には極めて多彩な色の生物が生存しています。植物にとっての花の色は、昆虫を惹きつけ、受粉するのに役立っていると考えられており、高等植物の進化に大きな役割を担っていると言われています。人間にとっても、様々な花の色は心に潤いをもたらしてくれます。人の目に見える大きさの菌類である「きのこ」も、地味な色から鮮やかな色まで実に様々な色の種類がありますが、きのこの色は、いったいどんな役割を担っているのでしょうか?
 きのこも子孫繁栄のためには胞子を飛散させますが、植物と同様自分で移動ができないことから、植物とは異なり圧倒的に風を利用して遠くまで飛ばす場合が多いようです。花のように「色」で昆虫をおびき寄せて胞子を運んでもらっているとは思えません。きのこも胞子飛散には昆虫などの動物を利用しますが、誘引する手段は「色」と言うより、むしろ「匂い」が多いように思われます。スッポンタケに代表される腹菌類のきのこは、特有の異臭(人間にとって)を発してハエを惹きつけて胞子を運んでもらっています。ショウロやトリュフなどの地下生菌も同様に特有の匂いを発することで、昆虫や動物により胞子を移動させる繁殖手段を獲得しているのです。
 それとも、きのこの色は食毒を示すためのものなのでしょうか…? 確かにきのこには毒をもった種類があります。きのこの食毒の見分け方には古くからいろいろな迷信があり、「派手な色のきのこは毒きのこ」もそのひとつです。しかし、タマゴタケは真っ赤な色をしていますが立派な食用きのこであり、逆にツキヨタケなどはシイタケに似た地味な色をしていますが、消化器系の中毒を引き起こす毒きのこなのです。きのこの色と食毒とはまったく無関係であって、色で食毒を見分けることはできません。
 このように、きのこにとっての「色」は、直接子孫繁栄のための生存手段とは関係なく、また、毒などの危険度を表す指標でもないように思われます。それでは、あのカラフルなきのこの色はいったい何のためなのでしょうか…? 実は、きのこの色の役割については、まだまったく解明されていないのです。
 ただし、色の成分については古くから研究が行われており、ドイツの有機化学者であるケーゲルにより「アカタケ」というフウセンタケ科の真っ赤なきのこからポリポル酸という赤色色素を発見したのをきっかけに、シュタケのシンナバリン(赤色)やアミタケのアミテノン(橙黄色)、ベニテングタケのアマバジン(青色)など続々ときのこの色素が発見され、化学構造が解明されるようになったのです。
 子孫繁栄のための胞子飛散時にのみ地上や樹上に出現する不思議な生物である「きのこ」。暗い森の中に発生しているきのこは実に色とりどりで、互いに個性を主張しているようにも見えます。普段はほとんど光のない闇の世界でひっそりと生活を営んでいることから、菌糸が集合して地上に巨大な(菌糸にとって)構造物の子実体を形成させた時こそ、まさに自己主張の最大の場面だと言えます。限られた地上での生存期間の中で、より効率的に胞子を飛散させるためには暗い森の中でひときわ目立つことが必要であることから、時には動物に食べられることも承知の上で、自己の存在を最大限にアピールするため、様々な色をまとうようになったのかも知れません。


主なきのこの色

種名 食毒 傘の色 胞子紋の色
ブナハリタケ
ヤマブシタケ
ドクツルタケ
ドクベニタケ 不食
タマゴタケ
チシオハツ
タモギタケ
キヌメリガサ
キシメジ
ソライロタケ 不食
アオイヌシメジ
アオロウジ
ハナガサイグチ 不食
マスタケ
カバイロツルタケ
ムラサキシメジ
ムレオオフウセンタケ
ムラサキヤマドリタケ
ヒラタケ
モミタケ
ハイカグラテングタケ 不食
ワカクサタケ 不食
アイタケ
モエギタケ 不食
クロカワ
カラスタケ
オニイグチ
ニオイコベニタケ 不食
サクラシメジ
トキイロヒラタケ
クリタケ
ヤナギマツタケ
キクラゲ
カレバキツネタケ 不食
ハダイロガサ
ニンギョウタケ
ナメコ 黄褐
エノキタケ
ムキタケ
はたけしめじ 灰褐
ブナシメジ
マイタケ
シイタケ
マツタケ
ツキヨタケ