きのこの雑学・きのこ驚きの秘密
きのこ本体の姿


 きのこは森の中の倒木や落葉などの植物遺体の中へ侵入し、菌糸体の外へ消化酵素を分泌して植物体を構成するリグニンやセルロースと言う難分解性の物質を体の外で分解(体外消化)して、効率良く体内に取り込んで養分として利用できる特性を持っています。木材などの植物体を構成するリグニンは、セルロースやヘミセルロースと並んで地球上で最も分解し難い成分として知られています。このリグニンなどの木材成分が分解されずに地下に堆積してできたのが、石炭なのです。因みに、植物や動物などの遺骸が何百年もの間地下に堆積して、地下の高温と高圧によって液体やガスに変化したのが石油です。しかし、この石炭などの化石エネルギーはきのこが地球上に出現する白亜紀以降になると、急激に埋蔵量が減少するようになります。きのこが出現したことで生物の遺骸が分解されてしまい、地下に埋もれることなく有機物として再利用されるようになり、地球上の物質循環に大きく貢献するようになったのです。つまり、化石エネルギーが有限なのは、きのこが地球上に出現して以降、死骸が地下に堆積されなくなってしまったことが原因と言えます。有限な地球の資源を有効に循環活用する働きを有するきのこですが、この物質循環の能力を逆に活用して木材から化石エネルギーに替わる新たな燃料などを作りだそうという研究が進んでいます。近年は地球温暖化が急激に進行していることから、持続的循環型の社会を構築して行くことが地球環境維持の面から注目されています。そもそも植物原料由来のバイオエタノールは、燃焼の際に生じるCO2がもともと植物由来の光合成産物であるため、大気中のCO2量に影響を与えないカーボンニュートラルな燃料だと言われています。そのため、石油に替わる新たな自動車用燃料としてのバイオエタノールの開発が注目を集めるようになっています。
 きのこを活用したプロジェクトとして、バイオマス変換利用の研究があります。木質資源の有効利用による食と飼料化ならびにバイオエネルギーの研究です。リグニン分解菌であるきのこを利用して木質資源中のリグニンを分解・除去し、残った炭水化物を家畜の飼料にすることやセルロースを糖化して酵母などの培養基質に利用して微生物タンパクの生産、あるいは糖からアルコールに変換して燃料として利用することを研究しているのです。リグニン分解性の食用きのこを使用することで、リグニンはきのことして食料に利用し、残ったセルロースは飼料や燃料など幅広い利用の道を切り開くことを目的としています。
 リグニンを分解する研究の対象となったきのこは、これまで白色腐朽菌の担子菌で、コウヤクタケ科に分類される Phanerochaete chrysosporium と言うきのこで、日本に分布しないことから和名は付けられていません。生育最適温度が40℃と高く、生長も極めて早いことから、世界中の研究者がリグニン分解のモデル微生物として使用してきましたが、子実体(きのこ)が発生したという報告はありません。コウヤクタケ科のきのこであることから食用には適さないと思われますが、変異体の作出が容易であることから、食用以外の工業界での活用が期待されるきのこだと言えます。
 リグニン分解力を持った食用きのこの活用としては、「ひらたけ」を使用したバイオレメディエーション(生物環境浄化)やバイオパルピング、あるいは農畜産業分野での飼料製造の際の前処理法としての技術が開発されています。また、バイオエネルギー分野では、木質原料をアルコールへ変えるための前処理プロセスに「ひらたけ」を使用する研究が進められており、同様の機能を有するきのことしては、エリンギや「まいたけ」も有望であると言われています。
 最近発表された鳥取大学の岡本准教授らの研究によれば、これまでの糖化と発酵の2つの工程に分かれていたバイオエタノールの製造方法において、新たなきのこを発見したことにより、木質原料から前処理工程のない単一プロセスでの直接的なエタノール生産が可能になったと言う画期的な報告がなされています(図1)。自然界から選抜した特異的にアルコール生産能力の高いきのこを使用することで、効率的なバイオエタノールの生産が現実的になりつつあるのです。バイオエタノールの先進国であるブラジルやアメリカでは、食糧や飼料となるトウモロコシやサトウキビなどを原料として工業用エタノールを製造するため、地球規模での食糧問題の観点から社会的に問題視されています。しかし、きのこを利用して食糧とは競合しない農業廃棄物や建築廃材などの森林資源からエタノールを製造することで、社会的な批判を回避することができるようになったのです。
 野生のきのこの中から一般の微生物が苦手とする糖質をアルコールへ直接変換する能力を有した特別のきのこを発見できたことは、バイオマス変換事業において極めて画期的な発明だと言えます。夢のようなその立役者とは、Lentinellus cochleatus (和名:ミミナミハタケ)(写真1)と言うAuriscalpiaceae属の木材腐朽力の極めて旺盛なきのこで、ヨーロッパや北アメリカさらには日本などにも広く分布することが解っています。この話題のきのこは、アニスやウイキョウ(フェンネル)に似た甘い香りがあって、食用とされています。この食用きのこからは、主にリグニンを分解する白色腐朽タイプと主にセルロースを分解する褐色腐朽タイプの両方が見つかっていることから、バイオエタノールと言ったエネルギー部門だけではなく、キシリトールなどの化成品の製造等様々な種類のバイオマス変換のツールとして今後の研究が期待されます。生ゴミにきのこの菌糸と水を加えて混ぜ合せるだけでエタノールの生産が可能であることが確認されており、1985年に公開されて大ヒットしたロバート・ゼメキス監督のアメリカ映画、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアン(タイムマシーン)に取り付けられたミスター・フュージョン(融合炉)顔負けのエネルギーシステムが、きのこの秘めたパワーによってまさに現実化しようとしているのです。
岡本准教授の最近の研究成果によれば、当初のミミナミハタケに代わって、現在ではキシロース発酵能力を有しているカワラタケやマツオウジと言ったもっと身近なきのこが有望視されるようになっているとのことです。


(図1)バイオマスからエタノール製造への流れ
図引用文献 : 鳥取大学大学院工学研究科、岡本賢治准教授より提供。


(写真1)Lentinellus cochleatus (Pers. : Fr. ) Karst.(和名:ミミナミハタケ)
日本を含む北半球の温帯に幅広く分布するマツカサタケ科ミミナミハタケ属の木材腐朽菌で、アニスやウイキョウ(フェンネル)に似た甘い香りのする食用きのこ。

(写真2) カワラタケ:Trametes versicolor (L.) Lloyd タマチョレイタケ科シロアミタケ属の最も普通に見られる木材腐朽菌で、制ガン活性を有するクレスチンを含むことから、薬用きのことしても注目されている。傘肉が革質であることから、食には不適なきのこである。
写真提供:鳥取大学大学院工学研究科、岡本賢治准教授より。





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